円こどもステージの12年

副島功(演劇と教育編集部)


演劇集団円が1981年に
「円・こどもステージ」をスタートさせて12年になる。
最初の作品はヤノーシュの絵本による「おばけリンゴ」。
 
こどもステージを企画した岸田今日子、小森美巳、
谷川俊太郎さんの発案から生まれたという。
 
当時、東京新聞「こども劇場」欄に児童演劇評を
執筆していた冨田博之さんは、次のように書いている。
「印象に残った、完成度の高い舞台を一つだけあげるとすれば、
演劇集団円による『おばけリンゴ』
(ヤノーシュの絵本から谷川俊太郎・脚本)ということになる。
...(中略)...
倉庫を改造したというスタジオに横長の舞台をつくり、
小編成の楽器によるナマの演奏(小森昭宏・作曲
もある手作り芝居だ。
/谷川俊太郎の詩のことばを聞かせることに神経を使った演出で、
ことばよりアクション優位の芝居ばかりの
多い児童劇では異色であり、貴重だ」(1982.07.31付)
 
「おばけリンゴ」から12年、
昨年(93年)暮れの「風に吹かれてドンキホーテ」まで毎年、
「円・こどもステージ」はこどものための
上質な舞台を創り出してきた。
功績の一つは、先の批評にもあるように、
ことばのおもしろさ・日本語の魅力や美しさを
こどもの劇の世界にふんだんに盛り込んだことであろう。
 
「おばけリンゴ」につづく 「どんどこどん」や現在も上演
されている「まどさんのまど」−裁判劇の趣向が楽しい−
などは、まさにことば遊びそのものが<演劇>なのである。
幼い観客たちはことば遊びに強い興味を抱きながら自然に、
ことばを発する人間の営みの不思議さに思い至る...
むろんこのことは、いま挙げた三つの作品に限った話ではない。
ここで上演されてきた作品に共通するのは、
そうしたことばへの洗練された感覚である。
 
例えば、「赤ずきんちゃんの森の狼のクリスマス」、
「卵のなかの白雪姫」、などの別役作品。
また佐野洋子の「自転車ブタがやってきて...」、
「夜汽車にのった子どもたち」など。
こどもたちの前に繰り広げられる非日常の世界、
ウソがウソとして成立つ舞台空間も、
やはり意表をつく仕掛けとことばのなせるわざであろう。
「赤ずきんちゃん...」の狼は、人のノド仏に噛み付くかわりに、
人をくすぐることに生き甲斐を感じているという、ヘンな奴だ。
...客席に並んで座っているこどもたちは「なんだアイツ!」
とか「弱虫だなあ」とか呟きながら、
<暗い森>の迷路の中に没入していく。といった具合に、である。
また「美女と野獣」の舞台からは、それぞれの年齢・環境に
応じて、”愛”の痛みやほんとうの深さを感じ取ることができよう。
児童・青少年演劇の一つのすぐれた典型をみる思いがしたのは、
私だけではないだろう。
 
幅広い年齢の俳優の力量、
美術や音楽の水準の高さも言い落としてはならない。
円の<4歳から84歳まで>をめざす
ていねいな舞台作りには、学ぶものが多い。
 
こどもを主体にしながら、大人もともに納得させうる魅力ある舞台は、
これからの児童青少年演劇のもっとも大きな課題であろう。
 
これからも美しい意思を投げつづけてほしい。
大きな波紋を呼び起こしてもらいたいな...と期待して。
1994年

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